一命

江戸初期、戦の世が終わり食い詰めた浪人の間では金品だの職だのを求めて羽振りの良い大名の屋敷で狂言切腹を行うのが流行ってたそうな。*1
そんなご時勢のある日、井伊家の江戸上屋敷にある浪人が現れ、切腹をしたいので場を貸して欲しいと申し出る。
その浪人に対して、ははーん流行の狂言切腹だな?と思った家老は、狂言を許さず実際に切腹させた実績を語ってみせる。


たぶんそこはあんまり重要じゃないってとこで気になった。
全力ネタバレなので一応畳んでおきますね。




切腹させてくれと言う武士、津雲半四郎は広島福島家の家臣なんだ。
で、井伊家に狂言しに行って本当に腹切らされたのは同じく広島福島家で普請奉行をしていた千々岩甚内の子で半四郎の娘婿、求女。


江戸幕府が開かれて以降、幕府の許可なしで城の普請は禁止されてたのだけれど、この許可ってのがなかなかの曲者。
家によってはなかなか許可がおりない。
関が原の合戦だの大坂の陣だのが終わって、徳川さんは西軍側についた家を隙あらば難癖付けてでも潰そうとしてた。
普請の申請を受けても許可を出さずに焦らして、ちょっとでも普請に手をつけたら待ってましたとばかりに御家取り潰し。
福島家は関が原では家康率いる東軍に味方したのだけれど、福島家当主の正則は子供の頃から秀吉に育てられた豊臣家臣の生え抜きも生え抜き、バリバリ豊臣恩顧だったので警戒されてお取り潰しのターゲットにされていた。
そこで普請許可を待ちきれずに「天守だけでも!」とか言って、普請奉行が止めるのも聞かずに禁を破ったもんだからそりゃ御家取り潰しだわな。
で、直情一直線みたいな福島家臣の皆さんを止められなかった普請奉行の千々岩は息子の求女を津雲半四郎に託して死ぬ。ゲホゲホして死ぬ。
ここまでは良い。判った。


場面変わって。
御家取り潰しで士官の口をなくし食うや食わずの困窮の中、半四郎は江戸で娘の美穂と千々岩求女を育てる。
やがて美穂と求女は結婚し子を生すが相変わらずのド貧乏。
元々身体の弱かった美穂は結核(?ゲホゲホ吐血してた)になるし、追い討ちをかけるように子供が熱を出す。
医者に見せるには三両要るがそんな金はない。
どうするどうする。


と、これが判らない。
なんでお前ら仕官の宛てもないのに広島から江戸に出てきてるの?
求女は学問に造詣が深そうな描写があったし、半四郎も剣の腕は相当ある。
その上、“福島家家臣”ってそこそこ貰い手に恵まれてた記憶があるんだが。
それで何で闇雲に江戸に出てきて傘張り内職してして食うや食わずの貧乏してるの。
普請奉行の子だからか?んな無茶な。



そこだけではないのだけれど、そんなことばかりが気になって気になって。
ええと。好きか嫌いかで言ったら凄く嫌いなタイプの映画でした。
断罪する訳ではないにしても、半四郎お前がそれを言うか感がゴリゴリ。



あと海老蔵が物凄く歌舞伎。よ!成田屋!とでも言わせたいのかという。
それから病身の満島ひかりの演技が兎に角怖かったです。
女優すげえや。
あの満島ひかりが雨の夜に赤子を抱いて飴屋の近くの辻に立ってたら絶対おばけを見てしまった!になるわ。


ひこにゃん可愛い。

*1:Trick or Treatという事ではない。上手くいけば情に絆されて士官の口が貰え、そうでなくて事なかれ主義でお金握らせて放り出す事が多かったとしている。